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R18 らぶえっち小説Blog
えっちな表現が盛りだくさんにつき、18歳未満&清純派さん回れ右!
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メメント・アモル-1
2011年01月06日 (木)
「まだこんなの、取ってあったんだ……」
 押入れの一番奥でかわいそうなくらいほこりをかぶって転がっていた立方体は、あたしが小学校に上がる前にお隣のヒロ兄ちゃんがくれた修学旅行のお土産のクッキーの空箱だった。でもこれはもう空っぽよと苦笑いするお母さんに、それでもどうしても欲しいと握りしめて駄々をこね、他の宝物やお気に入りのおもちゃと一緒に、大切に大切にしまいこんでいた。
「あたしにもそんな頃があったよねー」
 お兄ちゃんがくれたってだけで、ただの空箱が宝物なんて。
 ボックスから引き抜いたティッシュで表面を拭う。さすがに十年が過ぎてヨレヨレになってしまっているけど、見慣れたネコのキャラクターは笑っているとも無表情ともつかないいつもの顔で、じっとこっちを見ていた。
「ま、いっか」
 ゴミ箱に放り込もうとして、手が止まる。少し考えてからあたしはほこりまみれになったティッシュだけを捨てた。
「これはこれで、思い出だし」
 うんと大きく頷いて壁の時計を見上げると、七時二分ほど前だった。いつの間にかすっかり夜になっていた。もうそろそろかな。あたしがそう思ったのとほとんど同時に、一階のドアがバタンと乱暴に開く音がした。
「まゆちゃんーっ! 浩樹くんたちが来たわよー」
「はーい」
 階段を伝って、階下のにぎやかな声が聞こえ始める。お招きに預かりましてと、いつものように上品な挨拶をする隣のおばさんと、いいから座って食べましょと応じる、元気すぎるくらい大きな声のお母さん。
 今日はヒロ兄ちゃんのお祝いパーティ。就職氷河期がささやかれる中、大手デパート系列会社に仕事が決まったってすごいことだし、お祝いの気持ちはもちろんあるけど、だからってお母さんみたいにはしゃいだりなんてできない。
 だってさ、だって――。
『通えない距離でもないんですけどね、でもまぁ、これも一つの機会ですから』
 一人暮らしをするんだとさわやかに笑って、いつものようにあたしの頭を撫でたヒロ兄ちゃんはきっと、あたしの気持ちには一生気づかないんだわ。

 -つづく-
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メメント・アモル-2
2011年01月07日 (金)
「まゆーっ! 何してんの、さっさとおいでっ」
 元気な分だけ気の短いお母さんが叫ぶ。お腹が減ってイライラしてるんだろう。早く行かないとホントに怒り出しちゃう。それはそれでやっぱり困るし。
「はぁいっ! 今行くーっ」
 思いっきり叫び返してドアに向かって一歩を踏み出した途端、ぐらりと足元が揺れた。うわっ地震だぁって思いかけて、でも部屋の中のものは何一つ動いていないことに気づいた。
 ――あれ、れぇ……?
 ぐるんと天地がひっくりかえって、お腹の底から一気にこみ上げてきた吐き気にしゃがもうとしたけれど、足元はどこにもない。いつのまにか閉じていたまぶたの裏がぐるんぐるん回って、手足が先のほうから消えて行くような、どこかに吸い込まれてしまうような、そして……。
「――……ゆっ、まゆっ!」
 びっくりするくらいすぐそばでヒロ兄ちゃんの声がした。いつも落ち着いてるヒロ兄ちゃんっぽくない、とっても慌てた声。声の方向に顔を向けようとがんばってはみるけれど、なんだか身体がだるくて重くて、手も足も全然動かない。
「まゆ、大丈夫か? まゆっ」
 あたしの手を大きな手がぐうっと握っているのがわかる。ヒロ兄ちゃんの声しか聞こえないし、これってお兄ちゃんが手を握ってるのかな。なんでだろう、ヘンなの。だってヒロ兄ちゃんはいつだってあたしのことなんか子ども扱いで全然そういうんじゃなくて、がんばってバレンタインのチョコを手作りしても、笑顔でありがとうって言ってくれるけど、でもそれだけだったのに。
「まゆっ!」
 糊でしっかりと貼り付けた紙同士を剥がすように、ゆっくり開けたまぶたの隙間から、痛いくらいにまぶしい光が差し込んでくる。そこに誰かがいることだけはわかるけど、強すぎる光のせいで真っ白の影になって、顔なんか全然見えない。
「まゆ! よかった、よかったなぁっ!」
「あ、う……?」
 ぐうっと抱きしめられても状況がわからない。目を細めて眉を寄せて、やっとそこにいるのがヒロ兄ちゃんだと確認できて、でも。
「ヒロ、兄ちゃ……」
「よかった! もう大丈夫だぞ、まゆ。待ってろ、すぐにお医者さん呼んでくるから」
 叫ぶようにそれだけを言って、ヒロ兄ちゃんはバタバタと駆け出してしまった。光に目が慣れてきて、ぼんやりとだけど少しずつ周囲が見えてくる。白い天井と白い壁、白いカーテン。そして、どうやらベッドに寝転んでいるらしい、あたし。
 ――なにがどうなってんの……?

 -つづく-
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メメント・アモル-3
2011年01月10日 (月)
「着いたよ、まゆ」
「あ、はい」
 車から降りたヒロ兄ちゃんは、入院中のあたしの荷物が入った大きなボストンバッグを後部座席から引きずり出して軽々と持ち上げると、ドアロックをしてからくるりと振り返った。どうしていいかわからず立ち尽くすあたしの手を当たり前のように握る。一瞬固まったあたしのことは気にせず、ヒロ兄ちゃんはマンションの駐車場の床に黄色のラインで描かれた横断歩道のミニチュアの上をすたすたと歩き出した。
「ほら、こっち」
 軽く腕を引っ張られて、慌ててその背中を追った。横に並んだあたしを見て、ヒロ兄ちゃんがくすっと笑う。反射的に笑い返してから前を見るふりでそっと視線を外した。
 ――なんか、ウソみたい。
 普通にスーツを着てネクタイを締めたヒロ兄ちゃん。走るのに邪魔だからって理由で短くしていた髪が全体的に長くなって、授業中だけは必要だって話に聞いていたメガネをずっとかけてるから印象がずいぶん違う。すごくおとなっぽくてカッコイイってしみじみ思っちゃう。
 ――それに比べて、あたしったら……。
 鏡を覗き込んだときの、全然変わってない自分にがっかりしたあの瞬間を思い出すと足の力が抜けそう。実際そのときは、あまりの落胆にヘナヘナと床に座り込んでしまったくらいだし。それを勘違いしたお母さんがムダに騒ぎ立てて、助手さんや看護士さんがわらわらと入ってきて心電図だ脳波だと上の下への大騒ぎになって。本当のことを知ったみんなの溜息にあたしは立つ瀬もなかった。まぁ、お母さんの性格がまったく変わってないのには、逆にちょっと安心したけど。
「さぁ、まゆ。おいで」
 駐車場から入る荷物搬入用みたいなやたらと大きなドアを抜けて、シャンデリアの飾られた天井の高いムダにゴージャスなエントランスを通って、それに比べるとちょっと小さめのエレベーターに乗って、五階の十五号室。あたしとヒロ兄ちゃんの『新居』だと言う部屋は、日当たりのいい広いリビングと憧れのカウンターキッチンがあった。
「わー、うわーっ!」
 天井から床までの大きな窓と、薄いピンクのミニバラがツタに絡まったように縦に細く伸びるデザインの、レースの白いカーテン。丸い可愛いカフェテーブルと、おそろいの椅子。オレンジのカウチソファーに、トイプードルの毛みたいなふわふわのアイボリーのラグマット。壁に並んだスチールと白木のオープンラック……。
「か、かわいーっ!」
 うそ、なにこれっ! かわいいかわいい、超かわいいっ!
「だろ? これ全部、まゆが選んだんだよ」
 ボストンバッグを床に置くと、ヒロ兄ちゃんはオープンラックに並んでいた写真立てからひとつだけ手に取った。
「ほら見てごらん、まゆ」
 映っていたのは、真っ白のドレスを着て笑うあたし。

 -つづく-
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メメント・アモル-4
2011年01月12日 (水)
「きれいだろう? こっちは二人の写真。きれいに撮れてる、さすがにプロだって、まゆはすごく喜んでたんだよ」
 白いドレスのあたしと、シルバーグレイのタキシードを着たヒロ兄ちゃん。手を握り合って指輪を見せるポーズをする、ちょっと照れた顔のあたし。
「これは新婚旅行のときの写真。まゆの希望でイタリアへ行ったんだよ。まゆはイタリア語学科だったから。あ、それも覚えてない?」
 意外なくらい明るく訊かれたから、逆に申し訳なくって。
「……ごめんなさい」
「謝ることはないさ。こっちはローマ。これはフィレンツェ、かな。それで、これがヴェネチア」
 笑顔を絶やさずに丁寧に説明をしてくれるヒロ兄ちゃんの顔を見る勇気がなくって、あたしは大きなコルクボードに何枚も貼り付けられた、写真を示す長い指を見つめた。絵葉書みたいな外国の風景をバックにして、見てるほうがちょっとイラっとするくらい幸せそうに笑っているあたしを指す左手の薬指には、シンプルな指輪が嵌っていた。
「そしてあれがね、記念にって買ってきたベネチアングラス」
 ちらっとヒロ兄ちゃんが目を向けたオープンラックの二段目。淡いブルーの上を金色のラインで複雑な模様を描いた、いかにも高そうな細長いグラスが二つ、胸を張るように誇らしげに並んでいた。
「工房を見に行ったときにまゆが気に入ってね。記念日にだけ使うから、普段はあそこに飾ってあるんだ」
 そう言うと、ヒロ兄ちゃんは手を戻しながらあたしの顔を覗き込んだ。レンズ越しの物問いげなまなざしがあたしをじっと見つめる。ヒロ兄ちゃんが何を考えているのか、あたしがどう応えれば一番いいのか、それは痛いくらいわかっていたけど、でも。
「ごめんなさい。あたしホントに全然、覚えてない……」
 お医者さんは退院が決まってからも、多分とおそらくはを困った顔で自信なさげに繰り返していた。お母さんはアクセルとブレーキを間違えるなんてと事故の相手にものすごく怒って、それでもまぁ無事でよかったじゃないかとなだめるお父さんに、全然無事じゃないわよと噛み付いていた。ほのぼのと言うにはちょっと騒がしい二人にちょっと苦笑いしながらヒロ兄ちゃんがあいだに入る様子はホントに普通すぎて、あたしはまだいろんなことが信じられない。わからない。あたしの記憶が七年分もなくなっちゃった、なんて。
 ホントに、あたしとヒロ兄ちゃんは結婚したの? だってお兄ちゃんなんてあたしのことを全然女の子扱いしてくれなかったのに。どんなきっかけがあったの? どんな言葉でプロポーズされたの?
 大好きなヒロ兄ちゃんとの結婚なんて、あたしはどれくらい嬉しかったんだろう……?

 -つづく-
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メメント・アモル-5
2011年01月14日 (金)
「まぁ、いっぺんにあれこれ言ってもムリだよな」
 うつむくあたしに明るく頷くと、ヒロ兄ちゃんは手の中の写真を棚にそっと戻した。丁寧に角度を調節する様子に、この写真はヒロ兄ちゃんにとって大切なものなんだなってことがわかる。そこに映っているのはあたしなんだから、素直に喜んでもいいことだと思うけど、でも。
「焦っても仕方ない。普通にのんびりしていれば、きっとそのうち思い出すよ」
 がっかりしてるんだろうに、そんな素振りは全然見せずにヒロ兄ちゃんは笑ってくれる。返す言葉も見つからなくて、あたしは下唇を噛んだ。
「そんな顔しなくていいよ。まゆが悪いんじゃない。まゆは被害者なんだ」
 大きな手が頭をなでてくれる。そっと目を上げると、そこにあったのは、あたしの知ってるままの優しいヒロ兄ちゃんの笑顔。
「そうだ、疲れただろう? ちょっとゆっくりしよう。お茶でも淹れるよ。まゆの好きなローズヒップティがあるよ」
「え、あ……ありがと」
 キッチンへ向かった後ろ姿をぼーっと見送りかけて、慌てて後を追いかける。あたしに気付いたヒロ兄ちゃんが振り返った。冗談めかした顔で伸びてきた両手があたしの両肩にぽんと置かれる。真正面から抱き寄せられるようなカッコにドキッとした瞬間に、ヒロ兄ちゃんの腕の中で身体がくるっと回転した。百八十度方向転換して背中を押されて、元の場所まで戻されてしまった。
「いいからいいから。まゆはちょっと、そこで座って待ってな」
「え、あ……う、うん」
 そっか。手伝おうにも、あたしはどこにカップをしまってあるかすらわからないんだっけ。
 仕方なく、ムダにドキドキした胸を押さえながら言われたとおりおとなしく待つことにして、ソファの隅にちょこっと腰を下ろした。動くのに邪魔なのか汚れたら困るからか、脱いだ上着を椅子の背にかけてからキッチンに入る、すらっとしたヒロ兄ちゃんの後ろ姿を見送る。慣れた手つきでお茶っ葉やマグカップを用意する様子がカウンターの隙間から見えた。どこに何があるのか全部把握してるっぽい迷いのない動きからすると、どうやらあたしは普段から家事をかなり手伝ってもらってたみたい。ごめんなさいって謝ったあたしに、メープル色の木製のトレイを両手で持ってこっちに戻ってきたヒロ兄ちゃんは『それは違うよ』と笑った。
「家のことは二人でするのが当たり前だと思ってるよ。俺も一人暮らしはしてたから、別に苦にならないしね」
 言いながら、ヒロ兄ちゃんはソファー前の低いテーブルにトレイを置いた。行儀よく並んだお揃いのマグカップは、デザインと色使いが少しずつ違う。

 -つづく-
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メメント・アモル-6
2011年01月18日 (火)
 あぁ、そう言えば、お兄ちゃんは一人暮らしするって言ってたっけって頷くあたしの目の前に、薄いピンクの液体で満たされたマグカップがコトンと置かれた。
「はい、こっちがまゆの」
 もわりと湯気を放つ白い円筒形の上には、お花の上でミツバチが二匹並んで休憩してる絵がクレヨンみたいなやわらかな線で描かれていた。
「あ、ありがと」
「どうしたしまして」
 軽く肩をすくめながらトレイに残ったマグカップを取り上げると、ヒロ兄ちゃんはあたしのすぐ隣に腰を下ろした。体温が伝わりそうなくらいの距離に顔が鼓動が早くなってしまう。ちらっと手元を見ると、ヒロ兄ちゃんのマグはお花じゃなくってクローバーの上を飛んでるデザインで、確かにあたしだったら今使ってるのがいいって主張しそう。部屋に置いてある家具とかもそうだけど、あたしの好みが今とそれほど変わってないみたいで、そういうのはちょっと安心する。
 両手でくるみこむようにマグを持ち上げて一口だけこくりと飲んだ。ふわっと上がる甘酸っぱい香りは確かに好きだけど、でもお砂糖を入れて甘くしたほうが好きとか言うと、子ども扱いされちゃいそう。『あたし』はこの味がおいしいって思ってたのかな?
「ん、なに?」
 マグに口をつけたままそぉっと横目で見ていたのがバレたのか、ヒロ兄ちゃんは笑うのをガマンしてるような顔でこっちを見た。
「ううん、なんでもない」
「ウソつけ」
 あたしの返事を短い言葉で否定すると、ヒロ兄ちゃんは口元の笑みを消した。ふっと小さく息を吐いてマグカップをテーブルに戻して、ゆっくりとあたしを見た。
「そんな顔してないで、言ってごらん。答えられるだけ答えてあげるから」
 あたしをじっと見つめながらカウチに背を預けて、長い足を組む。こんなにすぐそばにヒロ兄ちゃんがいてあたしを見てるなんて、もうそれだけでドキドキして落ち着かない。レンズ越しに見つめられると、お茶してるさいちゅうのはずなのにのどがカラカラに乾いてくる。
「まゆが覚えてるかどうかは関係ない、とまでは言わないけど、でも俺たちは夫婦なんだ。そりゃ、突然のことで受け入れにくいかもしれないけど、それでも俺はこれからも夫婦であり続けたいし、そうできるように努力するつもりだよ」
「う、うん……」
 組んだ指をひざの上に置いて、怖いくらいまじめな顔で見つめてくる。記憶にある限り、今まで真剣な顔したヒロ兄ちゃんと真正面から向き合うなんて状況は全然なかったから、どうしていいかわかんない。

 -つづく-
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メメント・アモル-7
2011年01月20日 (木)
「えっと、それはその……」
 あたしの知ってるヒロ兄ちゃんは大学生だったから、ここまでネクタイは似合わなかった。髪は短かったし、メガネもかけてなかった。あたしが今年二十四歳って話だったから、ヒロ兄ちゃんは三十歳になっているはず。もともと落ち着いてる人だったからものすごく印象が変わったってわけでもないけど、でもよく見ると違う。当たり前だけど、やっぱり違う。ここにいるヒロ兄ちゃんは、あたしが知ってるヒロ兄ちゃんとまったく同じじゃない。
 ――でも、じゃあ、あたしは……?
 ヒロ兄ちゃんが好きだったあたしは、きっと高校生のままの今のあたしとは違う。残念ながら見た目はほとんど変わってないけど、それでもちゃんと大学に行ってイタリア語の勉強していた。結婚して辞めちゃったけど、小さな司法書士事務所の事務員の仕事に就いてたって教えてもらった。これって、結構ちゃんとした社会人だよね。高校生のあたしは自分で言うのもなんだけど、ちょっと怠け者だった。でもそれ以後のあたしはどうやらそこそこ頑張ってたみたい。だから多分ヒロにいちゃんは……。
 そこまで考えた瞬間、どくんとイヤなカンジに心臓が鳴った。
 ――もしかしたら、今のあたしは、ヒロ兄ちゃんの好きな『あたし』じゃない?
「お兄ちゃんは、なんであたしと結婚したの?」
 ヒロ兄ちゃんはどんな『あたし』が好きなの? 『あたし』のどこが気に入ったの? あたしはどうやったらヒロ兄ちゃんの好きな『あたし』になれるの? そんなことが訊きたくて口をついた言葉は、我ながら選択を間違えていた。
「なんだ。唐突だな」
 おかしそうにくすっと笑ったその表情は、まず間違いなく、あたしがホントに訊きたいことが伝わってるとは思えない明るいものだった。
「まゆは忘れてるから違和感があるかもしれないけど、まぁいろいろとあって。でも俺だって、まゆのことはかわいいってずーっと思ってたんだよ」
「そんなのうそっ」
 だって、ヒロ兄ちゃんは中学生の頃から彼女がいた。それをあたしに見せ付けたりもした。今でも忘れてない。ヒロ兄ちゃんと手をつないで歩くお揃いのブレザーを着た髪の長い女の人が、あたしの声に振り向ったときの余裕の笑顔を。
「ウソじゃないって」
 そんな大昔の話よく覚えてんなって溜息混じりにこぼしながら、ヒロ兄ちゃんはカリカリと頭を掻いた。
「それは高校生のときの話だろ。もう十二年も経ってんだから時効だって。俺は三年前からまゆひとすじなんだぞ」
 ――三年前……?

 -つづく-
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メメント・アモル-8
2011年01月22日 (土)
「そう、三年前。覚えてないのはまゆのせいじゃないから、そのことは気にしなくていい」
 手を伸ばしてマグカップを引き寄せると、お兄ちゃんは冷め始めていたローズヒップティをごくごくと半分ほど飲んだ。
「そんなに知りたいのなら教えてあげるよ、その辺の事情ってやつを。どっちにしてもいずれはわかることだから、先のことを考えたら早いほうがいいかもな」
 独り言みたいに言うと手にしていたマグをテーブルに戻した。跳ねるようにソファから起き上がるとあたしを見た。
「ほら、まゆも」
「えっ」
 どうしてと思う暇もないまま、大きな手がまだ充分中身の残ってるあたしのマグを奪った。テーブルに二つを並べて置いてからヒロ兄ちゃんが振り返る。
「これはまゆのお気に入りだからね。割れたりしたら悲しいだろう?」
「え、あ、ちょ、ちょっとぉ!」
 意味不明の言葉に首をひねる暇もなく、身を乗り出してきた長い腕に抱き寄せられた。慌てるあたしに普段と同じような笑顔を向けながら、ヒロ兄ちゃんはあたしを抱いたままゆっくりとソファに背中を沈み込ませる。
「三年前の春先頃だったかな。いつものように俺の住んでたアパートへ遊びに来たまゆが、ある日急に、あたし彼氏ができたのって言ったんだ」
「えっ……?」
 ドクドクと鳴る鼓動がうるさすぎて、この状況にもかかわらずとても静かな声はよく聞こえない。と言っても聞き取れないってことじゃなくって、その発言内容が唐突過ぎて意味がわからないだけなんだけど。目をぱちくりさせるあたしに、ヒロ兄ちゃんはおもしろそうにクスッと笑った。
「俺も最初は、よかったねって言ったよ。そしたら調子に乗ったのか、まゆは次々とその男のことを話し始めた。相手は大学の講師の先生だからみんなに内緒なんだけどって言いながら、キラキラした目で、二回目のデートでキスをした、一昨日は身体をさわられた、次のデートでは初体験しちゃうかも、なんて、浮かれててね」
 ――信じられるかい?
 のどの奥で低く笑いながらヒロ兄ちゃんはあたしの頭を撫でた。髪を指に軽くつまんで、すうっと滑らせる。耳に当たる指先の感触にぞくっとする。
「ついこないだまで俺のことを好きだって言ってくれてた、妹みたいに大切に思ってた子がだよ。俺より三つも年上のヤツとそんなことをしてるなんて、そんなヤツに処女を捧げるなんて、赦せると思うかい?」

 -つづく-
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メメント・アモル-9
2011年01月24日 (月)
「え、あ、いや、その……」
 記憶がないから実感はできないけど、確かに、あんまり人に言っていいことじゃないってことだけはわかる。女の子同士の恋愛相談とかならともかく、男の人に、しかもヒロ兄ちゃんに言うなんて、何考えてたのあたしーっ!
「それで、答えから言ってしまうと、俺は逆上したんだ。まゆからすれば勝手な言い分だったろうけど、大切にしていたものを横から掻っさらわれたような気がしたんだな。まゆがそいつのことを今も覚えてたらもっとわかりやすかったんだけど、まぁいいか」
「えっ? あっ、やぁっ!」
 抱きしめられたままガクンと上半身が落ちた。よく見てなかったからわからなかったけど、これはフルリクライニングのソファだったみたい。背もたれが倒れた分、座面が倍ほどの広さになって、そして。
「なっ、ちょっ、ちょっとっ」
「本当は、何日かは我慢するつもりだったんだ。俺を煽ったまゆが悪い」
 軽く肩をすくめると、ヒロ兄ちゃんは外したメガネをテーブルに投げた。かちゃんと音を立てて転がって行く方向さえ確認せず、あたしの両肩を乱暴にソファに押し付けた。
「さぁ、あのときの再現をしようか」
「あ、やっ! んん……っ」
 笑みを浮かべるドアップに耐え切れず目をつぶった瞬間、やわらかなものが唇を塞いだ。ぬるんと入り込んでくる舌が歯ぐきの裏をなぞる。胸を押し返そうと上げた手は簡単にひとまとめにされた。足をバタバタさせて逃げようとしたけれど、その隙間にひざが入り込んできて、腰から下も動かせなくなる。スカートの上から身体をさわられて、全身の毛が逆立つような気がした。
「ヒロ兄ちゃん、なに、を……?」
「なにって、キスだよ。まゆは忘れてるからね、もう一度、順番に教えてあげる」
 ――俺のことをね。
 言葉の意味がわからず呆然と見上げるあたしに爽やかな笑顔が降ってくる。ヒロ兄ちゃんは、あたしの両手を押さえつけたまま空いた左手でネクタイを引き抜いて、それを手首に巻きつけて、そして。
「ちょ、ちょっ、ちょっと、待って!」
「可愛いよ、まゆ」
 耳のふちをヒロ兄ちゃんの舌が這って行く。ちゅっと音を立てて耳たぶを吸い上げられると背中がぞくぞくした。うなじから首、鎖骨のラインへとキスを続けながら、カットソーのすそをスカートから引っ張り出した。剥き出しになったお腹を撫でられて、でも抵抗しようにも強い力に押さえつけられた手足が動かせない。背中に回った指先がブラのホックをつまむ気配がした。

 -つづく-
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メメント・アモル-10
2011年01月26日 (水)
「や、ちょっ、ホントに! ホントに待ってってばぁっ!」
 でもあたしがどんなにお願いしても、ヒロ兄ちゃんは笑うだけだった。ぷちんとホックが外れる気配が肌に伝わって、緩んだ胸元に手が入り込んでくる。残念ながら豊かとは言いがたいあたしの胸は、ヒロ兄ちゃんの手のひらにすっぽりと包み込まれた。
「やっ、やだやだやだ……っ! あ、んんっ」
 そっと摘み上げられると声が出る。優しくねじりながら、ときどき強く指先できゅっと押し潰される。眉をひそめるくらいのぴりっとした痛みと、そのあとに流れ込んでくる蕩けるような感覚に息が荒くなってしまう。
「あっ、は、ぁ……」
「ほら、気持ちいいだろ? まゆは乳首が敏感だからな」
 爽やかな笑顔でとんでもないことを言いながら、ヒロ兄ちゃんはあたしの胸に顔を伏せた。長く伸ばした舌で、摘まれて赤くなった乳首を突付く。左の胸に舌を押し付けて強く吸い上げながら右側を指で弄ばれる。音を立ててちゅるんと吸われると耐え切れない声が出てしまう。
「やっ、だめ、あ、あ……っ」
 ――こんなことをヒロ兄ちゃんがするなんて。されちゃうなんて。
 そんなことも思うけど、でもヒロ兄ちゃんばかりを責められない。だってあたし、今……。
「あっ、はぁ……っ」
 赤くぷっくりふくれたところを、舌先を強く押し付けるようにしながらコリコリと舐められるとゾクゾクする。どうしよう、ホントに気持ちよくなってきちゃいそう。そんなあたしの変化に気付いたのか、顔を上げたヒロ兄ちゃんがふっと息を吐くように笑った。
「気持ちよさそうな顔してるね。可愛いよ、まゆ」
「やっ! ち、ちがうもんっ」
「ほら。またウソをつく」
 首を振って否定したあたしに軽く肩をすくめると、ヒロ兄ちゃんはつまんだ指にぎゅうっと力を入れた。いきなりの痛みに身体を硬直させたあたしを見て、楽しそうに声を上げる。
「これは痛いだろう? それでこっちは気持ちいい。違うかい?」
「あっ、いやぁっ」
 楽しそうに低く笑いながら、ヒロ兄ちゃんは強くつまんで優しく舐めてを繰り返した。あたしは成すすべもなくガクガクと震えるだけ。気持ちいいのと痛いのが交互に来て、一緒になって、どっちが痛くてどっちが気持ちいいのか、わかんなくなってくる。

 -つづく-
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